【レーベル紹介】ULTRA VAGUE Recordings

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Ultra Vague Recordingsの音楽を初めて聴いたのは数年前、Bandcampでいつものように音楽を探している時に、同レーベルのコンピレーションであるUvarious ArtistsシリーズのVOL.4を聴いた時のことだったと思う。その時は「Name Your Priceのアルバムだ、いろいろ聴けて便利だな、うれしいなあ・・」という感じの、当たり障りのない印象だったが、収録アーティストの一つであるAl Coholicの2枚のアルバム-妙にチープな90年代風のテクノで、そのB級なストレートさにもかなりグッときた-にどハマりして以来、自分の中ではずっと応援していて、Jimmy Spoonのすばらしいミニアルバムなどが出るたびに、なんでこんな素晴らしい音楽が話題にならないのだろうとやきもきした。Ultra Vague Recordingsはウクライナ出身のFudo Kazukiという人物が運営しているレーベルで、ちょうどこのレーベルと出会った頃はロシアとウクライナが政治的になんだかややこしいことになっていて、この人ウクライナに住んでて音楽なんかやってる暇あるのかな?と全く関係ない国の話なのにモヤモヤ不安に思ったりもした。そしてその思いは数年経った今でも変わらず(Fudo氏はここ数年の間にアメリカに移住したらしく、彼個人に対する「戦争に巻き込まれるんじゃないかな・・・」的な勝手な心配はしなくて済むようになったが)Ultra Vague Recordingsの知名度もUvarious Artistsが5、6と枚数を重ねた今もイマイチ変わらず、それでもなんだかんだでFudo Kazuki氏はTwitterやFacebookでUltra Vagueのことを日本語でつぶやくとすぐエゴサで見つけていいね!や❤️を押してくれるので、なんだかいい加減150文字以上の文章をこのレーベルについて書かないといけないような気がしてきたので、ちょうど先日(5/12)Uvarious Artists VOL.6』がリリースされた今、そんな文章を書いていきたいと思います。

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Ultra Vague Recordings2014年のこのインタビューによると、2008年に当時トリップポップバンドMAMANETのマネージャーをしていたFudo氏によって創設されたレーベル。これまでに80枚近い音源をリリースしていて、ジャンルとしてはエレクトロニカやトリップポップ系のミュージシャンの作品が多め。作品はすべてFudo Kazuki氏のセンスで選ばれていて、その為レーベル全体に音楽的な統一感があり、逆に言うとそのなんだか良い雰囲気以上のものはないので、インディーズのこれ系の音楽に「革新性のあるやつ!!!」とかを求めがちな、歴史の証人になりたい系の人にはあまり人気がないのかもしれない。僕は普段トリップポップ的な音楽を聴くことがなく、ポーティスヘッドとかも「ぱっぱと歌って次の曲いけ!!」とか思ってしまうダメリスナーなので、なんでそんな自分がこのレーベルのSorrow Leads To Salvationみたいなもろエレクトロニカ・ミーツ・トリップポップな音楽を平然と聴けるのか疑問だが、どこかアコースティックギター片手に歌うケルト民謡的なものの弦楽器の代わりに打ち込みのビートが鳴っているような素朴さがあるのが魅力になっているのではないかと思う。なんとなくウクライナって一年中ずっとこんな感じなんだろうなーと思って聴くと音楽が望郷の歌みたいに聞こえて結構沁みるのです。

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といいつつ僕もまだこのレーベルのアーティストを全部聴けているわけではなく、むしろ聴いているのはごくわずかで、そのごくわずかなミュージシャンがめちゃくちゃ音的にハマってるから、このレーベルを応援し続けようと思っている、といった感じ。実はこのレーベルはCDやレコード、カセットといったフィジカルなリリースは一切していなくて(多分)、すべてダウンロード販売オンリー(きっと)。去年くらいにオフィシャルのHPをリニューアルしてBandcampも0から作り直し(?)てからはきちんとアルバムに8ドルとか7ドルとかお金を取るように方針が変更されたのですが、それ以前はどうしてこんなにちゃんと作ったものをNYPで売るのか?と思うものばかりで、ただただ不安でビタ銭ではありますが、お金を払って音源をダウンロードし続けていました。

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レーベルのアーティストをあまり聴き進んでいない理由の一つに、雰囲気がどれも一緒だからあんまり一個ずつ聴こうとは思わないというのもあるのですが、一個一個聴いてみたら個性的というかこれが東欧的ということなのか、かなりアクの強い音楽もあって、そのアクの強さからなかなか抜け出せないということもあります。僕が最初にハマったAl Coholicなんかはリリース当時10代の少年だったようなのですが、遊びで作ってるんだろうけどここまで楽しい音楽ならいいよなという気持ち良いテクノ。まさにカタカナで3文字「テクノ」と言いたくなるようなドラムンベースな音で(じゃあテクノじゃないだろ・・)、僕のiTunesではRoni Sizeの某アルバムよりも再生回数が多いアーティストです。ただ現在はAl Coholicでの活動をやめ、Shanti Peopleというなにかと仏教っぽい音楽グループで活動中。

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歌ものの充実もこのレーベルの良いところです。完全にFudo氏の趣味だと思うのですが、KAYEとかJimmy Spoonのような、深く静かに響くようなボーカルのアーティストが男女問わず多く在籍しています。特に僕が好きなのはJimmy Spoonで、この「Water Hurts」なんて曲はDepeche Modeの数千倍深みと安らぎがあるようで、これもめちゃくちゃ聴いてる曲です。ULTRA VAGUEにしろFudo Kazuki氏にしろ、VK.comとかちゃんとロシア系というかそっちの言語のSNSを覗くときちんと人気があって安心するのですが、このJimmy Spoon氏にいたってはツィッターのフォロワーが2人しかいなくて、見つけた時はフォローしていいかかなり悩みました。(結局フォローしたけど全然ツィートが更新されないのでフォローを外しました。)

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とにかくULTRA VAGUE Recordings、いいです。あんまり話題にならなそうなB級っぽい音源もノリで出してるようなところとか、煮え切らない感じ、東欧とかあのへんのインディーのシーンにありがちな「田舎オルタナ」「田舎テクノ」みたいな日本のそれ系のバンドよりも下手すると素朴~!ってなるようなバンドの音源も出していて、そういう懐の豊かさも良いと思います。中でも一番いいなと思うのはFudo Kazuki氏の好みというかそういうのが(最近はなんかズブズブ仏教系にいってる感じですが、母国がロシアとあれだったりしていろいろ抱えていらっしゃるのでしょう。)ブレずに一貫しているところ。あとちゃんと出すべきところでは雰囲気出してるというか、きちんとポリシーもってやってる感じがするのも良いです。日本でどれだけの人がこのレーベルのことを知っているのかわかりませんが、もう少し多くの人が知ってもバチは当たらないと思います。Ultra Vague Recordingsはなぜか日本語のツィッターがあったりアメブロやってたりそういうところもおもしろいです。ぜひいろいろ聴いてみてください。まずは先日発売された『Uvarious Artists VOL.6』が一番の入門編になると思います。NYP、Fudo Kazuki氏による日本語タイトルの「引きこもり」という曲も入っています。オススメです。

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Who Is Juan Mutant? 〜Juan Mutantとは誰なのか?〜

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先日、Apple Musicでアメリカのノイズバンド、Whitehouseの音源を探している時に、「White House」という名義で、何やら膨大な量の音源をリリースしているアーティストを見つけました。

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一見たかだかアルバム10枚程度に見えますが、問題はそのボリュームです。まず左上のアルバム、『Bunker』は30曲入りで収録時間15時間(!)49分。いきなりわけがわかりません。

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さらに驚いたのが『Exile Express』でこちらはなんと116曲入って収録時間37時間55分(!!)

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なんだこれは!?と思い、さっそくこの「White House」について調べてみました。ジャケットからしてノイズのWhitehouseっぽいですが、よく見ると名前が微妙に違うし(WhiteとHouseの間にスペースが入っている)、WhitehouseのDiscogsを開いてみてもどこにも載っていません。リリース元の”Mutant Records”も聞いたことがない名前です。途方に暮れながらもあちこちネットの海を彷徨い、しばらくそれを繰り返しているうちに、この音源をリリースしているのが、Juan Mutantというミュージシャンであることがわかりました。

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Juan Mutant、本名Juan Rogelio Camilionはアルゼンチン出身のミュージシャンで、1969年8月22日生まれ。かつてはドイツのベルリンでDJとして活動したり、90年代初頭から中頃にかけてはDeliriant Mutantというバンドを組んで活動をしていた時期もあったようですが、何らかの理由で95年に本国に強制送還されてしまい、以降はブエノスアイレスに在住。そこで2004年頃からCD Babyを使って音源のダウンロード販売を始め、そのまま現在に至る、という人物。公式HPやSNSのアカウントは存在せず、その正体は謎に包まれています。

これだけ書くと少し不思議な部分はあるものの、何てことはないごく普通の(人生はちょっとしんどそうですが)ミュージシャンといった感じですが、さらにいろいろ調べていくと、どの名義が最初で、どの名義が最新なのかはわかりませんが、Juan Mutant氏は2016年現在、なんと先のWhite Houseだけではなく、CD Babyを通じ全部で36名義359枚のアルバムをリリースしている、ということがわかりました(!)。

衝撃すぎて意味がわからないのですが、それも何十年といったスパンではなく、主に2004年から2013年の間を中心にそれだけの音源をリリースしているのです(!)。これは彼が主要な音源のリリース元としているCD BabyのHPで、juanmutantのアカウント名でリリースされている全音源をチェックした際に表示される枚数で(適当に数えたので数は間違っているかもしれませんが)、これ以上の作品がある可能性もあります。
たった数年の間にこれだけの名義を使い回し、鬼のように音源をリリースすることだけでもすごいのに、さらにこれらのアルバムを1つ1つ見ていくと、そのほとんどがWhite House同様、収録曲数50曲以上、総再生時間9時間だの15時間だのといったマグナム級のボリュームを持っているのです。収録曲が200曲を超えているアルバムもありますし、9曲しか入っていないのに再生時間は10時間近いアルバムもあったりします。いくらなんでもストロングスタイルすぎます。

そこで36の名義をチェックし、いくつか主要と思われるものをまとめてみました。音源はApple MusicやSpotifyで聴けるようになっているものも多いので、気になる方は是非チェックしてみてください。

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まずは本名であるJuan Rogelio Camilion。Apple Musicで検索すると、以下の4つのアルバムが聴けるようになっています(うちAim2とAim3がCD Babyでも販売中)。

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そのうち『Aim 2』はリリースの日付が89年7月20日になっており、もしこの通りなら一番古い音源の1つかもしれません。しかしながらこのアルバムも50曲で15時間ある大作になっており、このままリリースされた可能性は低いと思います。単純に作った日付なのでしょう。『Aim 3』も1曲目から40分近いアシッド・ハウス風の曲が続く全19時間の大作で、まだ数曲しか聴けていませんが、なかなか聴き応えがあるアルバムです。なお2の時期Juan氏はKen Mutantというドイツ人と壁崩壊後のベルリンでDJをしていたと言われています。(その後Jasper VosJanos Bartaというメンバーを交えDeliriant Mutantを結成。)
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そのバンド、Deliriant Mutant名義でもいくつかの作品がリリースされており、Apple Musicでは以下の4枚を聴くことができるようになっています。

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しかしながらリリース日はいずれも2009年など最近のものになっており、『Live』を聴いてみましたが、1曲目こそバンドで録音したレゲエ・スカっぽい曲を延々ループさせている感じの曲で、そこはかとなくバンドらしさを感じるものの、残りの曲は全てディストーションをかけたエレキギターを一人で弾き倒している演奏をただ録音しただけ、といったテイストのものが延々続き、おそらくバンドの録音ではなく、そのマテリアルを使った可能性はあるものの、完全な一人制作の音源だと思われます。CD Babyではこのほかに『Zen Deliriant Mutant』というCD-R限定の作品を購入することもできますが、こちらは180曲入っていて全曲収録時間が0分0秒というかなり人をおちょくった内容で(サンプルを聴けないだけで中身はちゃんと入ってるのかも)、もはやバンドでもなんでもありません。Amazonでは『Kash the System』『The End of Deliriant Mutant』という上記2サイトにはない2枚のアルバムを購入できますが、いずれも2000年代以降にリリースされたもので、編集盤の可能性はあるものの、バンドの音源かどうかまではわかりませんでした。もしかするとバンドとして正式に録音されたアルバムはないのかもしれません。(※追記 Nadja Pagana Kreativ System名義のアルバム『Follow the Dolar』がバンドDeliriant Mutant時代のコンピレーションとのこと。)

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次はJuan Mutant名義。一見これが最もスタンダードな名義に思われ、実際リリース量もApple Musicでは38枚、CDBabyで37枚と膨大なのですが、実はSir Juan Mutantという名義の方がリリース量が多く、なんとCD Babyで159枚の音源をリリースしており、うち38枚をApple Musicでも聴くことができるようになっています。Juan Mutantが本命かと思いきや、どうやらこちらの方が本命だったようです。しかしながら2011年の『La Escollera』という曲を最後にリリースが途絶えています。ちなみに両者の音に明確な違いはないようで、なんとなく途中からSirをつけてみただけのようです。アーティスト・プロフィールには自身の音楽性やアルゼンチンに強制送還された後の暮らしをうかがわせる長めの文章が書かれています。

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King Juan MutantはSir Juan Mutantの後を継ぐ名義として生まれたものと思われ、CD Babyで27枚の音源をリリースしています。Apple MusicとAmazonには音源は1つもありませんが(Spotifyでは1枚聴けるみたいです。)、アルバムをいくつか試聴してみたところ、いずれも過去の有名なバンドの曲をそのままコピー&ペーストして曲名を変えただけのPlunderphonicsな作りで、ほとんどロックの曲名当てクイズになっています。 同時期にXl20mutant名義でリリースされた『A』というアルバムも50曲全てがビー◯ルズの曲名当てクイズになっており、音楽を作る気の無さが感じられます。

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Nadja Pagana Kreativ System、これもApple Musicでみるとリリース日がめちゃくちゃ(誕生日の4日前)だったりしてアレですが、CD Babyのプロフィール欄に「ベルリンでKen MutantとDJをしていた頃にアイデアが生まれたバンド」だと書かれているので、本名の名義のアルバムと同じく、音源としては一番古いものが含まれているかもしれません。まともなアーティスト・プロフィールが書かれているのはこれとSir Juan Mutantくらいです。音楽的にはいかにも90年代初頭のジャーマンEBMといった感じのインダストリアルな音で、ざっと聴いた中ではかなりまともな方。Apple Music、CDBabyともに2枚の音源を確認できます。(※追記 アルバム『Follow the Dolar』はバンドDeliriant Mutant時代のコンピレーションとのこと。)

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最後にWhite Houseについても少し触れておきたいとおもいます。White Houseは2007年の1年間だけ活動していた名義で、1年間に16枚のアルバムをリリース。この名義の意図などは一切不明ですが、ジャケットには戦争やアメリカの歴史を思わせる写真が使用されていて、かなりUSA的なものを感じます。Apple Musicではうち10枚を聴くことができます。

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以上がJuan Mutantの主要な(と思われる)名義とその作品ですが、ここに書かれていない中でもGrandchester FunkJon FinchJuan Domingo Peronなどの名義がそれぞれ多くの作品をリリースしています。

またJuan Mutantは音源をリリースする際のレーベル名にも様々な名前を使っていて、一見アーティスト名とアルバムを見ただけではそれとわからない作品でも、レーベル名を確認することでJuan Mutantの作品だとわかる、という仕掛けが施されています。これにはJuan Rogelio Camilionとストレートに本名を使っているものから、Rogelioを抜いたJuan Camilion、架空のレーベル名をでっちあげた”Mutant Records”、”Whore Mutant”、”Mandioca Records”といったバリエーションがあります。
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Juan Mutant氏の音楽性はキャリア初期(80年代後半から90年代中頃まで)の当時のEBMであったりハウスミュージックであったりに影響を受けた作風から実に多様に変化を繰り返しており、その変化は大まかに概括することも不可能なくらい多岐にわたっていて、ほとんど無限と言って良いと思います。すべてのジャンルをクロスオーバーしているわけではありませんが、つかみどころがないという意味で、アメーバみたいにあらゆるところに触手を伸ばしています。そもそも各アルバムにその時作った音源が入っているかもわからないので、およそ時系列で語ることが不可能に近いミュージシャンです。1つのアルバムの中でさえ統一感がありません。なのでこの人の音、というイメージはあるのですが、それに色がついていないというか、表現することが非常に難しい質感の音楽です。音楽を制作する気持ちがあるかどうかも怪しく、事実ギターを一本弾き倒してるだけの録音が曲として延々垂れ流しになっているだけのアルバムもありますし、近作では他のミュージシャンの曲をタイトルだけ変えてただ垂れ流しているだけの、現代アートのような状態になってしまっているアルバムもあります。アウトサイダー・ミュージックと呼ぶのには個人的に抵抗を感じますが、『Songs in the Key of Z』のVol. 3がもし出るなら、収録されてもおかしくないミュージシャンの一人ではあると思います。彼の精神状態については諸説あって、病気ではないかという説も散見されますが、パラノイアックな面も含めて、個人的には26歳というこれからという若さで活動の場からアルゼンチンに強制送還され、そこで生きることを強いられた孤独なミュージシャンが、世間への鬱憤とか人生への挫折とかそういうものも含めて、半ばやけくそでこういうことをやっているのかな、という気もしないではありません。
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最後に、Juan氏の近況についてですが、実はJuan氏はCD Baby上では2013年に発表したKing Juan Mutant名義の『Escape Quien Pueda』というアルバムを最後に音源の発表をストップしており、現在何の音沙汰もありません。そもそも今生きているかも不明です。上述のようにJuan氏はレーベル名でもアーティト名でも平気で自分と関係のないことを書きつつ(出身国を欺くとか、ジャンルを平気でノイズなのにブルースロックと書くとか、とにかく適当)、ビミョーなところで自分の存在をほのめかす人なので、もし存命なのであれば、CD Baby以外の場所で、このようにわかる人だけにわかるサインを使いながら、どこかで作品を発表し続けている可能性は大いにあると思います。引き続きチェックしていきたいと思います。
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【音源紹介】 The Forbidden Tracks / Forbidden Society

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チェコのドラムンベース系DJ、Forbidden Societyの2001年から2013年までの未発表音源を収録したアルバム。単純にドラムンベースというよりはEBMやハードミニマル、ダークアンビエント的な手法を使って表現されたメタル・ミュージックといった趣で、ヘヴィーでハードなビートを全面に押し出した曲の聴き味はテクノだがほとんどメタルのそれに近い。アルバム後半にはダーク・アンビエントな曲が並ぶが、この並びで聴いているとBurzumなどのブラックメタルを聴かされているような気分になって面白い。Alec EmpireのATRやDHRのグループに近いものを感じる瞬間もあるが、安易なサンプリングに頼らない楽曲構成にシャープな魅力を感じる。ラップをフィーチャーした曲はノイジーなRoni Sizeといった程度であまり面白くなく、ドラムンベースという括りで聴いてしまうと少し退屈な音楽かもしれない。23曲136分のボリュームのある音源で聴く人を選ぶが、メタル、テクノどちらのリスナーにもオススメできる内容。
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