Who Is Juan Mutant? 〜Juan Mutantとは誰なのか?〜

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先日、Apple Musicでアメリカのノイズバンド、Whitehouseの音源を探している時に、「White House」という名義で、何やら膨大な量の音源をリリースしているアーティストを見つけました。

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一見たかだかアルバム10枚程度に見えますが、問題はそのボリュームです。まず左上のアルバム、『Bunker』は30曲入りで収録時間15時間(!)49分。いきなりわけがわかりません。

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さらに驚いたのが『Exile Express』でこちらはなんと116曲入って収録時間37時間55分(!!)

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なんだこれは!?と思い、さっそくこの「White House」について調べてみました。ジャケットからしてノイズのWhitehouseっぽいですが、よく見ると名前が微妙に違うし(WhiteとHouseの間にスペースが入っている)、WhitehouseのDiscogsを開いてみてもどこにも載っていません。リリース元の”Mutant Records”も聞いたことがない名前です。途方に暮れながらもあちこちネットの海を彷徨い、しばらくそれを繰り返しているうちに、この音源をリリースしているのが、Juan Mutantというミュージシャンであることがわかりました。

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Juan Mutant、本名Juan Rogelio Camilionはアルゼンチン出身のミュージシャンで、1969年8月22日生まれ。かつてはドイツのベルリンでDJとして活動したり、90年代初頭から中頃にかけてはDeliriant Mutantというバンドを組んで活動をしていた時期もあったようですが、何らかの理由で95年に本国に強制送還されてしまい、以降はブエノスアイレスに在住。そこで2004年頃からCD Babyを使って音源のダウンロード販売を始め、そのまま現在に至る、という人物。公式HPやSNSのアカウントは存在せず、その正体は謎に包まれています。

これだけ書くと少し不思議な部分はあるものの、何てことはないごく普通の(人生はちょっとしんどそうですが)ミュージシャンといった感じですが、さらにいろいろ調べていくと、どの名義が最初で、どの名義が最新なのかはわかりませんが、Juan Mutant氏は2016年現在、なんと先のWhite Houseだけではなく、CD Babyを通じ全部で36名義359枚のアルバムをリリースしている、ということがわかりました(!)。

衝撃すぎて意味がわからないのですが、それも何十年といったスパンではなく、主に2004年から2013年の間を中心にそれだけの音源をリリースしているのです(!)。これは彼が主要な音源のリリース元としているCD BabyのHPで、juanmutantのアカウント名でリリースされている全音源をチェックした際に表示される枚数で(適当に数えたので数は間違っているかもしれませんが)、これ以上の作品がある可能性もあります。
たった数年の間にこれだけの名義を使い回し、鬼のように音源をリリースすることだけでもすごいのに、さらにこれらのアルバムを1つ1つ見ていくと、そのほとんどがWhite House同様、収録曲数50曲以上、総再生時間9時間だの15時間だのといったマグナム級のボリュームを持っているのです。収録曲が200曲を超えているアルバムもありますし、9曲しか入っていないのに再生時間は10時間近いアルバムもあったりします。いくらなんでもストロングスタイルすぎます。

そこで36の名義をチェックし、いくつか主要と思われるものをまとめてみました。音源はApple MusicやSpotifyで聴けるようになっているものも多いので、気になる方は是非チェックしてみてください。

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まずは本名であるJuan Rogelio Camilion。Apple Musicで検索すると、以下の4つのアルバムが聴けるようになっています(うちAim2とAim3がCD Babyでも販売中)。

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そのうち『Aim 2』はリリースの日付が89年7月20日になっており、もしこの通りなら一番古い音源の1つかもしれません。しかしながらこのアルバムも50曲で15時間ある大作になっており、このままリリースされた可能性は低いと思います。単純に作った日付なのでしょう。『Aim 3』も1曲目から40分近いアシッド・ハウス風の曲が続く全19時間の大作で、まだ数曲しか聴けていませんが、なかなか聴き応えがあるアルバムです。なお2の時期Juan氏はKen Mutantというドイツ人と壁崩壊後のベルリンでDJをしていたと言われています。(その後Jasper VosJanos Bartaというメンバーを交えDeliriant Mutantを結成。)
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そのバンド、Deliriant Mutant名義でもいくつかの作品がリリースされており、Apple Musicでは以下の4枚を聴くことができるようになっています。

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しかしながらリリース日はいずれも2009年など最近のものになっており、『Live』を聴いてみましたが、1曲目こそバンドで録音したレゲエ・スカっぽい曲を延々ループさせている感じの曲で、そこはかとなくバンドらしさを感じるものの、残りの曲は全てディストーションをかけたエレキギターを一人で弾き倒している演奏をただ録音しただけ、といったテイストのものが延々続き、おそらくバンドの録音ではなく、そのマテリアルを使った可能性はあるものの、完全な一人制作の音源だと思われます。CD Babyではこのほかに『Zen Deliriant Mutant』というCD-R限定の作品を購入することもできますが、こちらは180曲入っていて全曲収録時間が0分0秒というかなり人をおちょくった内容で(サンプルを聴けないだけで中身はちゃんと入ってるのかも)、もはやバンドでもなんでもありません。Amazonでは『Kash the System』『The End of Deliriant Mutant』という上記2サイトにはない2枚のアルバムを購入できますが、いずれも2000年代以降にリリースされたもので、編集盤の可能性はあるものの、バンドの音源かどうかまではわかりませんでした。もしかするとバンドとして正式に録音されたアルバムはないのかもしれません。(※追記 Nadja Pagana Kreativ System名義のアルバム『Follow the Dolar』がバンドDeliriant Mutant時代のコンピレーションとのこと。)

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次はJuan Mutant名義。一見これが最もスタンダードな名義に思われ、実際リリース量もApple Musicでは38枚、CDBabyで37枚と膨大なのですが、実はSir Juan Mutantという名義の方がリリース量が多く、なんとCD Babyで159枚の音源をリリースしており、うち38枚をApple Musicでも聴くことができるようになっています。Juan Mutantが本命かと思いきや、どうやらこちらの方が本命だったようです。しかしながら2011年の『La Escollera』という曲を最後にリリースが途絶えています。ちなみに両者の音に明確な違いはないようで、なんとなく途中からSirをつけてみただけのようです。アーティスト・プロフィールには自身の音楽性やアルゼンチンに強制送還された後の暮らしをうかがわせる長めの文章が書かれています。

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King Juan MutantはSir Juan Mutantの後を継ぐ名義として生まれたものと思われ、CD Babyで27枚の音源をリリースしています。Apple MusicとAmazonには音源は1つもありませんが(Spotifyでは1枚聴けるみたいです。)、アルバムをいくつか試聴してみたところ、いずれも過去の有名なバンドの曲をそのままコピー&ペーストして曲名を変えただけのPlunderphonicsな作りで、ほとんどロックの曲名当てクイズになっています。 同時期にXl20mutant名義でリリースされた『A』というアルバムも50曲全てがビー◯ルズの曲名当てクイズになっており、音楽を作る気の無さが感じられます。

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Nadja Pagana Kreativ System、これもApple Musicでみるとリリース日がめちゃくちゃ(誕生日の4日前)だったりしてアレですが、CD Babyのプロフィール欄に「ベルリンでKen MutantとDJをしていた頃にアイデアが生まれたバンド」だと書かれているので、本名の名義のアルバムと同じく、音源としては一番古いものが含まれているかもしれません。まともなアーティスト・プロフィールが書かれているのはこれとSir Juan Mutantくらいです。音楽的にはいかにも90年代初頭のジャーマンEBMといった感じのインダストリアルな音で、ざっと聴いた中ではかなりまともな方。Apple Music、CDBabyともに2枚の音源を確認できます。(※追記 アルバム『Follow the Dolar』はバンドDeliriant Mutant時代のコンピレーションとのこと。)

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最後にWhite Houseについても少し触れておきたいとおもいます。White Houseは2007年の1年間だけ活動していた名義で、1年間に16枚のアルバムをリリース。この名義の意図などは一切不明ですが、ジャケットには戦争やアメリカの歴史を思わせる写真が使用されていて、かなりUSA的なものを感じます。Apple Musicではうち10枚を聴くことができます。

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以上がJuan Mutantの主要な(と思われる)名義とその作品ですが、ここに書かれていない中でもGrandchester FunkJon FinchJuan Domingo Peronなどの名義がそれぞれ多くの作品をリリースしています。

またJuan Mutantは音源をリリースする際のレーベル名にも様々な名前を使っていて、一見アーティスト名とアルバムを見ただけではそれとわからない作品でも、レーベル名を確認することでJuan Mutantの作品だとわかる、という仕掛けが施されています。これにはJuan Rogelio Camilionとストレートに本名を使っているものから、Rogelioを抜いたJuan Camilion、架空のレーベル名をでっちあげた”Mutant Records”、”Whore Mutant”、”Mandioca Records”といったバリエーションがあります。
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Juan Mutant氏の音楽性はキャリア初期(80年代後半から90年代中頃まで)の当時のEBMであったりハウスミュージックであったりに影響を受けた作風から実に多様に変化を繰り返しており、その変化は大まかに概括することも不可能なくらい多岐にわたっていて、ほとんど無限と言って良いと思います。すべてのジャンルをクロスオーバーしているわけではありませんが、つかみどころがないという意味で、アメーバみたいにあらゆるところに触手を伸ばしています。そもそも各アルバムにその時作った音源が入っているかもわからないので、およそ時系列で語ることが不可能に近いミュージシャンです。1つのアルバムの中でさえ統一感がありません。なのでこの人の音、というイメージはあるのですが、それに色がついていないというか、表現することが非常に難しい質感の音楽です。音楽を制作する気持ちがあるかどうかも怪しく、事実ギターを一本弾き倒してるだけの録音が曲として延々垂れ流しになっているだけのアルバムもありますし、近作では他のミュージシャンの曲をタイトルだけ変えてただ垂れ流しているだけの、現代アートのような状態になってしまっているアルバムもあります。アウトサイダー・ミュージックと呼ぶのには個人的に抵抗を感じますが、『Songs in the Key of Z』のVol. 3がもし出るなら、収録されてもおかしくないミュージシャンの一人ではあると思います。彼の精神状態については諸説あって、病気ではないかという説も散見されますが、パラノイアックな面も含めて、個人的には26歳というこれからという若さで活動の場からアルゼンチンに強制送還され、そこで生きることを強いられた孤独なミュージシャンが、世間への鬱憤とか人生への挫折とかそういうものも含めて、半ばやけくそでこういうことをやっているのかな、という気もしないではありません。
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最後に、Juan氏の近況についてですが、実はJuan氏はCD Baby上では2013年に発表したKing Juan Mutant名義の『Escape Quien Pueda』というアルバムを最後に音源の発表をストップしており、現在何の音沙汰もありません。そもそも今生きているかも不明です。上述のようにJuan氏はレーベル名でもアーティト名でも平気で自分と関係のないことを書きつつ(出身国を欺くとか、ジャンルを平気でノイズなのにブルースロックと書くとか、とにかく適当)、ビミョーなところで自分の存在をほのめかす人なので、もし存命なのであれば、CD Baby以外の場所で、このようにわかる人だけにわかるサインを使いながら、どこかで作品を発表し続けている可能性は大いにあると思います。引き続きチェックしていきたいと思います。
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【音源紹介】 The Forbidden Tracks / Forbidden Society

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チェコのドラムンベース系DJ、Forbidden Societyの2001年から2013年までの未発表音源を収録したアルバム。単純にドラムンベースというよりはEBMやハードミニマル、ダークアンビエント的な手法を使って表現されたメタル・ミュージックといった趣で、ヘヴィーでハードなビートを全面に押し出した曲の聴き味はテクノだがほとんどメタルのそれに近い。アルバム後半にはダーク・アンビエントな曲が並ぶが、この並びで聴いているとBurzumなどのブラックメタルを聴かされているような気分になって面白い。Alec EmpireのATRやDHRのグループに近いものを感じる瞬間もあるが、安易なサンプリングに頼らない楽曲構成にシャープな魅力を感じる。ラップをフィーチャーした曲はノイジーなRoni Sizeといった程度であまり面白くなく、ドラムンベースという括りで聴いてしまうと少し退屈な音楽かもしれない。23曲136分のボリュームのある音源で聴く人を選ぶが、メタル、テクノどちらのリスナーにもオススメできる内容。
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As Able As Kane(AAAK)

 

 

 

 

 

As Able As Kane(通称AAAK)は元The FallメンバーのSimon “Ding” Archer氏がThe Fall参加以前の1987年に活動していた2人組のEBMグループで、現在は5人組のロックバンドとして復活、サルフォード近郊(The Fallの前座という意味)を中心に細々と活動を続けています。

 

 

 

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(デュオ活動時。左がSimon “Ding” Archer氏、右はボーカルのPaul Rawlinson氏)

 

 

 

 

As Able As KaneはFront 242やNitzer Ebbなどの旋風が吹き荒れる1987年にマンチェスターで結成。オリジナルメンバーのSimon “Ding” Archer氏とボーカルのPaul Rawlinson氏の他にBrendan McGuirkという人が加入したり、名義をAs Able As KaneからAAAKに縮めたりと紆余曲折を経ながら1989年と90年に1枚ずつアルバムを発表、いざ世界の大舞台へ上がるかと思われたのですが、そのあまりに「いやそれNitzer  Ebbやん!」という、ブームから30年以上が経過しようとしている今ではただの二番煎じにしか、いや、単なる○○にしか聞こえないサウンドにはさすがに当時のグレートブリテンもいいね!は押してくれず、ベルギーやドイツなど、EBMであればなんでもよかったヨーロッパ諸国ではそこそこのファンベースを獲得できたものの、本国での伸び悩みと、スタジオでの機材盗難事件に巻き込まれたことによるアルバム制作の頓挫などにより、グループは活動の停止を余儀なくされてしまいます。その後Simon “Ding” Archer氏がベーシスト兼エンジニアに転身し、The Fallに加入したりPJ Harveyや果てにはPixiesのアルバムにベーシストとして参加したりしていることは周知の通りですが(Pixiesの「Indie Cindy」に”Ding”としてクレジットされているのはこの方です)、Paul Rawlinson氏とBrendan McGuirk氏は「デモリションマン」のシルベスター・スタローンばりに冷凍睡眠に入ったのか、何の音沙汰も無いまま幾多の歳月が流れて行きました。

 

 

 

 

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1st  「Buildingscapebeat」

 

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2nd「Big Fist」

 

 

 

そして2009年、Electric Tremor Dessauという名前からしていかにもアレな香りのするドイツのEBMレーベルが(そう言われれば当時EBMブームが来ていたような気がします)、1stアルバム「Buildingscapebeat」のリリース20周年を記念した限定の再結成ツアーと、コンピレーションアルバムの発表を突如グループに持ちかけてきます。それをきっかけに2人は再会、コンピレーションアルバムには過去の音源の再録版とレアなデモ音源が収録される運びとなり、そのプロモートを兼ねたいくつかのライブをAs  Able As Kaneとしてこなしていくうちに、2人の中に本格的なグループ活動の再開という考えが浮かびます。こうしてDisc 1に過去の音源の再レコーディング集、Disc 2に未発表のデモ音源などを収録した2枚組のコンピレーションアルバム「The Collection」が発売され、As Able As Kaneは10数年ぶりに音楽活動を再開させることになったのでした。

 

 

 

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「The Collection」

 

 

再結成したAs Able As Kaneは2011年にシングル「Out Here」をリリースした後、2012年にはメンバーを5人に増やして3枚目のアルバム「Totalitarian Tip-Toe」をリリース。その後は(なぜか)Red Hot Chili Peppersの東ヨーロッパツアーの前座に起用されるなど順調な活動を続け(“Ding”氏人脈でPixiesの前座も経験)、知名度はつゆほども上がらないものの(上がらないと思います)、現在はレーベルを移籍しEromeda Musicに所属、故郷マンチェスターを拠点にThe Fallの前座などをこなしながらコンスタントに音源を制作し、2013年には1stアルバムのオリジナルリマスター盤とバンド編成での再録音盤をコンパイルした4thアルバム「Building Scape Beat XXV」を発表。2014年にリリースしたシングル「Sweet Sweet Kiss」が目下最新作となっています。(2016年7月現在)

 

 

 

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Single「Out Here」 このシングルまでは2人体制

 

 

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3rd「Totalitarian Tip-Toe」

 

 

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4th「Building Scape Beat XXV」

 

 

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Single「Sweet Sweet Kiss」

 

 

 

現在のバンドメンバーは、

Paul Rawlinson (Vocal)
Seth Leppard (Guitar)
Simon “Ding” Archer (Sequences & Keys)
Tamsin A  (Bass, Vocal)
Dan Woolfie (Drum)

の5人で、Paul氏はボーカル、Simon氏はベースではなくデュオスタート時のポジションである打ち込みとキーボードとして参加しています。ドラムのDan Woolfie氏は現在Blossomsというバンドのツアーマネージャーをやっており、ギターのSeth Leppard氏はThe Wordsというバンドを兼任、紅一点のベース/ボーカルのTamsin A嬢もMr Heartというバンドでギターを弾きながらヨーロッパツアー中と、メンバー各人が各々慌ただしく仕事をしている状況で、こちらのSimon氏のインタビューによると、As Able As Kaneとしては「新作のレコーディングは終わっているものの、活動再開はメンバーの揃うタイミング待ち」、という状況のようです(レコーディングそのものは2014年に終了)。

しかしながらTasmin A嬢とSimon氏、そしてSimon氏と同じく元The FallメンバーのSimon Wolstencroft氏らでStemzという新しい音楽プロジェクトをやる、という話もあがっているので、いずれにせよしばらくはAAAK関連の活動そのものは続いていきそうです。

 

 

 

最後にいくつか曲を紹介しておきます。

 

 

初期の楽曲です。思いっきり当時のEBMというか、Front 242、Nizter Ebbにモロな影響を受けていることが伺えます。本国でウケなかったけどヨーロッパではそこそこの支持を集めた、というのも納得の音です。AAAKの音について特徴的な点を1つあげるならば、それはどこか初期のThe Jesus & Mary Chainの影響を受けている気がする、というところでしょうか。うまく言えませんが、音楽を始めたきっかけ的な部分にジザメリが影響を与えている気がしてなりません。時代的なものでしょうか?

 

 

 

2012年の復活作「Totalitarian Tip-Toe」の収録曲です。可もなく不可もないサウンドにギターやベースが乗ることでそこそこの変化が感じられます。Hadouken!をおじさんが真似してる感じです。「再結成バンド」らしい曲で、個人的にはAnd Oneが荒れたような音に聴こえます。

 

 

 

 

目下最新作であるシングル曲です。打ち込みが少し後ろに引っ込み、バンドサウンドが前面に出ることで、EBM的な構成を保ちつつも、もろブリットポップなサビで何を聴いているのかわからなくなる、という少し不憫な曲です。バンドサウンドを前に出すことで以前より聴きやすくはなっているのですが、今度はEBMというよりAtari Teenage Riotを真似しているおじさん、みたいな感じになってしまいました。そのあたりをどうするかが今後の課題なのかもしれません。

 

 

 

 

レッチリの前座で演奏した時の映像です。ライブで観るとものすごくEBMぽいです。おそらくキャリア史上最多の観客だったのではないかと思われます。ドラムの人の叩いている変なドラムが大変気になります。